とある司法書士の戯れ言

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退職慰労金として不動産を現物支給する場合・2

 ある日の午後、取引先の方から「前社長(会長)に会社名義の土地建物を退職金の一部として譲渡したい」との相談がありました。取引先の会社の登記簿を確認したところ、前社長(会長)は6月末に辞任という形で退任していました。そして、会社名義の土地建物の登記簿を確認したところ、以下のことが分かりました。

 

1.土地(市街化調整区域)の登記簿上の地目が「畑」で現況宅地として課税されている。なお、土地を取得した際に農地転用届出をしている。

2.建物は未登記である。建築確認申請が不要な地域であるため建築確認申請していない。

 

 1については、農地転用届出書があるか否か確認し、原本があれば地目変更登記を済ませてから所有権移転登記手続をすることになります。2については土地家屋調査士さんと打ち合わせの結果、会社名義で建物表題登記&所有権保存登記をした後に、土地建物をまとめて所有権移転登記をすることにしました。

 

 所有権移転登記をするための事前準備はこのくらいですが、事前準備中にワシは所有権移転登記の登記原因および会社にある株主総会議事録につき確認することになります。

 

 今回の所有権移転登記の登記原因は、会社法第361条第1項3号の規定が当てはまるので「年月日会社法第361条第1項第3号による移転」か「年月日退職慰労金の給付」のどちらかになります。登記研究第790号では後者になっているので後者にすると思います。この場合、登録免許税率は1000分の20になります。

 

 さて「年月日会社法第361条第1項第3号による移転」もしくは「年月日退職慰労金の給付」による所有権移転登記手続きをする際に必要な書類はどうなるでしょうか。

 

 この場合には、退職慰労金の支給につき、株主総会の承認決議が必要です。(会社法第361条)また、退職慰労金の支給内容を取締役会で決める場合には「支給内容を取締役会で決定することを承認した」株主総会決議と「支給内容につき承認を得たこと」を証する取締役会決議が必要になります。この取締役会においては、退職慰労金が支給される取締役は利害関係人になるので、支給内容に関する承認決議については議決権がありません。

 

 また、退任した取締役が受諾の意思表示をしたことも要件の1つになります。よって、登記原因証明情報には、退職慰労金の支給につき株主総会(&取締役会)決議で承認されたことと、退任した取締役が受託の意思表示をしたことを記載することになります。

 

 なお、登記申請には株主総会議事録(&取締役会議事録)を添付する必要はなさそうです。退職慰労金を給付すること自体には取引性がないため利益相反行為にはならないからだそうです。

 

 あとは株主総会決議(取締役会決議)のタイミングですね。ネットなどで事例を調べたところ、当該取締役が退任した日に決議しているケースが多そうです。

 

 ちなみに、今回のケースでは当該代表取締役兼取締役が辞任するのと同時にもう1人の取締役も辞任したため、現在はいわゆる1人株式会社になっています。退職慰労金の支給に関する決議も取締役会設置会社の定め廃止などの決議を一緒になされているはずなので、株主総会議事録の内容につき確認する必要がありそうです。